移転価格税制

移転価格税制とは、「海外の子会社等と取引する場合、その取引価格を調整することによって、本来であれば本店所在地国で得られたはずの利益が、海外に移転されないよう設けられた制度」のことをいいます。

海外子会社との取引価格が、第三者との客観的な取引価格と異なる場合、その差額部分が課税対象となる恐れがありますので注意が必要です。

ここでは具体例として、日本の自動車メーカーA社が海外にある子会社B社から自動車を輸入しているケースを考えてみましょう。

A社は日本で自動車を作ると製造コストが高くなってしまうため、海外に子会社Bを作り、そこで製造した自動車を日本に輸入しています。この自動車を海外のB社で製造するコストを50万円/1台とします。

ここで、A社が日本で販売する自動車の価格は200万円としますが、B社も利益を上げないと会社を運営できないため、日本への取引金額を100万円に設定したとします。

それぞれの利益は以下のとおりとなります。

日本のA社:売上200万円 仕入れ100万円 利益100万円

海外のB社:売上100万円 製造コスト50万円 利益50万円

仮にA社所在地国であるX国(日本)の法人税率が40%・B社所在地国であるY国(外国)の法人税率が10%だった場合、企業グループの納税額は以下のとおりとなります。

A社の利益:100万円 × X国の法人税率40% = 40万円

B社の利益:50万円 × Y国の法人税率10% = 5万円

企業グループの納税額 = 40万円 + 5万円 = 45万円

もっとも、B社は海外にあるA社の子会社ですから、B社が販売し、A社が仕入れる金額は自社グループ内で自由に設定できることになります。

そのため、A社とB社が帰属するそれぞれの国で法人税率が異なるのであれば、税率が高い日本の親会社A社は税率が低い海外の子会社B社への仕入れ価格を一気に引き上げてしまえば、親会社の利益を大幅に減らすことが可能となります。それゆえ、税率が低い海外にある子会社のB社に利益そのものを移転しまえば、企業グループ全体として考えた場合、税負担を大幅に軽減させることができることになります。

例として、先ほどのA社とB社の取引金額を150万円に引き上げた場合、それぞれの利益は以下のとおりとなります。

日本のA社:売上200万円 仕入れ150万円 利益50万円

海外のB社:売上150万円 製造コスト50万円 利益100万円

仮にA社所在地国であるX国(日本)の法人税率が40%・B社所在地国であるY国(外国)の法人税率が10%だった場合、企業グループの納税額は以下のとおりとなります。

A社の利益:50万円 × X国の法人税率40% = 20万円

B社の利益:100万円 × Y国の法人税率10% = 10万円

企業グループの納税額 = 20万円 + 10万円 = 30万円

もっとも、上記のような行為を認めてしまうと日本では法人税収が大幅に減ってしまうわけですから、日本の課税当局はたまったものではありません。

このように海外に利益を移転させるように売上を調整し、日本での課税逃れを防止するのが移転価格税制の目的といえます(日本では1986年より本制度が導入されました)。

上記のケースの場合、A社以外の第三者企業との取引価格が子会社B社への取引価格と異なることになります。B社の取引価格だけを意図的に小さくなるように調整するわけですから、当然ながら第三者企業との取引価格の方が大きくなります。

こうした場合、税務当局は第三者企業への取引価格を基準として利益を計算し、A社には「第三者企業との取引価格 ― B社の取引価格」の差分総額が追徴課税されることになります。

移転価格税制の適用を受けないためには、第三者企業との間で成立すると思われる「客観的な価格」で子会社との取引を行う必要があります。実際の取引価格と客観的な価格に差額がある場合、この差額は御社の所得に上乗せされるため、追徴された分は二重課税状態となり、多額の追徴課税が生ずることとなります。

移転価格が「不当かどうか」という点については、いくらなら適切なのかも含め、専門家にとっても非常に難しい問題で、会社側と税務当局側との見解の相違も多く、そのため税務訴訟で争う事例が相次いでいるのが現状です。

上記の取引例を国単位で見た場合、日本では納税額が減り、海外では増えることになりますから、「A社から入ってくるはずの税金を、B国の所在地である外国に奪われてしまった」日本側の税制で問題になるのが通常です。

このように、日本で課税されてしまった場合、海外で税金を払いすぎていることになっているはずなのですが、B社の所在地国からしても「日本の都合だけでは税金を還付できません!」となる可能性も十分にあり得るわけです。

すなわち、2か国間の取引においては、「税率が高い国」の移転価格税制で問題になることが多いため、高税率国のX国と低税率国のY国の取引であればX国側で問題になり、Y国とさらに低税率国のZ国の取引であればY国側で問題になることが多いことになります(税率が高い国にわざわざ利益を「寄せる」行為は経済合理性に見合わないため、通常行われることがないからです)。

移転価格税制は各国の税制の歪みを利用した租税裁定行為であるため、絶対的な基準はなく、相対的な基準によって適用される国が異なることになります。

また、移転価格税制はタックスヘイブン対策税制とは異なり、適用対象は法人の取引に限定されるため、個人は適用対象外となっています。さらには、第三者間であれば価格の操作ができないために、通常は取引価格を自由に決定できるような企業グループ内の国際取引のみが対象になると考えられます。

したがって、通常は、価格移転税制が問題になるケースとしては、「自国よりも相対的に低税率国に存在する子会社との取引規模が比較的大きい会社」との取引が主な対象になるといえます。

※客観的な移転価格を実際に決めることは大変難しいのですが、「事前確認制度」という手続きを行うことにより、日本の税務当局から事前にお墨付きをもらう方法もあります。手続きは簡単ではありませんが、税務リスクを回避するために検討してみる価値はあるかもしれません。