移住前に検討すべきこと

富裕層には2通りのパターンが存在します。

1つは「ストック型」、もう1つは「フロー型」です。

ストック型の富裕層は、不動産収入を得ている地主や株式の配当金などから収入を得ている大口株主など、資産から生まれる収入が多額にあることで資産を形成された方が該当します。

これに対して、フロー型の富裕層は、会社経営者、医師や弁護士などの専門家、あるいは金融機関のトレーダーなど、ご自身の能力により多額の収入があることで資産を形成された方が該当します。

ゆえに、節税目的として、「ストック型」は相続税・贈与税を、「フロー型」は所得税・住民税を意識した海外移住を検討することになります。「ストック型」は相続税・贈与税が非課税となる国へ、「フロー型」は所得税・住民税が非課税あるいは低税率となる国へ移住することにより、極めて高い節税効果が期待できるからです。

しかしながら、「ストック型」の場合は、ご自身が働くのではなく、資産に働いてもらうことで収入を生み出しているために、海外に移住しても収入は生まれますが、「フロー型」の場合は、ご自身の労働により収入を生み出しているために、海外に移住してしまうと途端に収入源が途絶えることになります。

もっとも、海外移住を利用した課税逃れを実現させるためには、「ストック型」の場合は、贈与人(相続人)・被贈与人(被相続人)がともに5年以上海外で生活しなければならないこと、「フロー型」の場合は、移住先でも日本と同様の収入源を確保しなければならないという問題に直面することになるため、どちらのタイプであっても海外移住は容易に実行できるものではありません。

さらには、「ストック型」の場合、贈与や相続が非課税になるのはあくまでも国外財産のみになるため、5年以上海外で暮らしても国内財産は課税対象となること、出国税の導入により大量の有価証券を保有したまま移住してしまうと出国時に15%が課税されてしまうという問題があります。「ストック型」の弱点は、土地や建物などの固定資産を海外に持っていけないという流動性の問題があり、時価総額1億円以上の有価証券を保有している場合には一度売却してから移住後に買い戻さなければならないという価格変動リスクが生じることとなります。

また、「フロー型」の場合は、インターネットビジネスや執筆業などであれば世界中どこでも仕事ができますが、収入の源泉が主に日本国内にある場合、源泉地国課税主義により日本で得た所得は日本で納税する義務があるために、実質的には住民税分しか節税効果を得られないことになります。この問題は法人口座に振り込んでもらうことで個人の所得税は免税できるかもしれませんが、その一方で、今度はタックスヘイブン対策税制や移転価格税制など他の問題が生じることになります。

近年、富裕層の間でキャピタルフライトを目的とした海外移住を検討される方が増えていると聞きますが、海外移住そのもののハードルが下がったとはいえ、いざ実行する段階になるとクリアしなければならない問題がたくさんあることがおわかりいただけるかと思います。

ここ数年来、東南アジアへの移住ブームが目覚ましく、その中でもシンガポールへの移住が脚光を浴びています。その理由は非常に明確であり、①「事業のアジア進出におけるハブ機能としての立地の良さ」、②「居住環境の快適さ」に加え、何といっても③「法人税率や個人の所得税率が低く、贈与税(相続税)がかからないこと」などが挙げられます。

こうした理由により、事業のアジア進出とともに個人資産の国外移転も兼ねて、富裕層のシンガポール移住はこの数年、日本からは急激に増えたと言われています。シンガポールの税制では「ストック型」・「フロー型」のいずれのタイプにも大きなメリットを提供しているためです。

しかし、海外移住をするためには、上述した問題に加え、配偶者・子ども・両親・友人などの人間関係の問題をクリアしておく必要があります。

実際に、贈与税や相続税の回避目的で海外移住した場合、途中で断念してしまい、免税となる10年を待たずして帰国されるケースが増えていることも事実です。

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