MM2Hとラブアン就労ビザ

マレーシアへの移住を予定しているお客様から「ラブアン就労ビザよりもMM2Hビザを取得したほうが、何かと多くのメリットが得られるのではないか?」というご質問を非常に多くいただきます。

以下にマレーシア法人・ラブアン法人の就労ビザと比較し、MM2Hビザの本質及び就労ビザの活用方法についてご説明いたします。

MM2Hビザ マレーシア法人ビザ ラブアン法人ビザ
ビザの種類 観光ビザ 就労ビザ 就労ビザ
対象者 誰でも可能 国内事業を行う個人 国際事業を行う個人
有効期限 10年(更新可) 2年(更新可) 2年(更新可)
収入要件
  • 国外からの収入
  • ※月額10,000RM以上
  • 給与所得
  • ※月額5,000RM以上
  • 給与所得
  • ※月額10,000RM以上

 

【MM2Hビザの本質とは?】

MM2Hは1996年よりマレーシア政府が新たな外貨獲得(観光収入獲得)手段として発足させたリタイアメントプログラムの名称で、マレーシア国外からの収入があることなど、一定の条件を満たす外国人であれば原則として誰でも取得することが可能です。

発足当時の名称が「Silver Hair Program(シルバー・ヘア・プログラム)」とされていたことからも、このプログラムの本質が定年退職者を対象にした「リタイアメントビザ」であることがわかります。

その後、2002年に現在の「Malaysia My 2nd Home(マレーシア・マイ・セカンド・ホーム)」に名称が変更され、マレーシア国外から所得を得ている若年層の取り込みも積極的に行われることとなりました。

こうした取り組みは現在、マレーシアをはじめ、フィリピン、タイ、インドネシア、オーストラリア、カナダなどでも実施されており、定年退職者の方々には根強い人気があります。以下はMM2H取得者数の集計データですが、2002年~2015年までの過去12年間において3,912名の日本人が取得していることがわかります。

過去5年間の取得者推移を見るかぎり、2011年は東日本大震災・原発問題による海外避難先の確保、2012~2013年はイスカンダル計画による不動産広告等の影響、2014~2015年は出国税対策など、諸々の理由により日本からの取得人数が一時的に急増したものと思われます(※あくまでも取得者数ベースであるため、実際にマレーシアに来られた方の人数ではありません)。

多くの方々が仰る通り、MM2Hの有効期限は10年(更新可)となっているため、利便性は非常に高いのですが、デメリットとしては、MM2Hの本質は「就労ビザ(Work Permit)」ではなく「観光ビザ(Social Visit Pass)」であるということです(※MM2Hは移民局に加え、観光省警察が管轄しています)。

つまり、MM2H(観光ビザ)の本質を一語で言えば、「マレーシアに自由に出入国できる権利」であるといえます。


 

【ロングステイ=海外移住ではない】

定年退職後のロングステイ先としてマレーシアを選択されるのであれば、利便性の高いMM2Hの取得をおすすめしますが、タックスプランニングを考慮した海外移住をお考えの方々にとっては、観光ビザだけでは少々都合が悪いように思われます。それは、税制上の問題に関してはマレーシアだけでなく、本国での課税制度も考慮する必要があるからです。

ここでは日本国籍保有者の方々を対象に、日本の税制について考えてみましょう。

・「居住者」と「非居住者」
イギリスやフランス、マレーシアなどの国々では、「年間の過半数を海外で過ごせば自動的に非居住者としてみなす」という「183日ルール(マレーシアは182日)」が採用されているため、「居住者」・「非居住者」の判定は非常にシンプルです。

一方、日本の税制では、滞在日数以外にもご家族の状況や勤務先等も併せて判定されるため、非常に問題が複雑化しています。

たしかに日本の税制では183日以上日本に滞在した場合は「課税対象になる」とされてはいますが、これとは逆に、183日未満の滞在は「課税対象にはならない」とはどこにも明記されていません。

年間滞在日数を183日未満に抑えることで非居住者になると解釈されている納税者や税理士の先生も多くいらっしゃるようですが、これは明らかに納税者都合による拡大解釈に他なりません(住民票を抜いてしまえば非居住者になるといった考え方も同様です)。

では、その「居住者」・「非居住者」の判定ですが、実は明確な基準は存在していません。日本国国税局の見解として、「居住者」・「非居住者」の判定は、「客観的事実に基づき、総合的に判断する」としています(※この点は日本国籍保有者の方は注意が必要です)。

客観的事実とは、具体的に以下のようなものです。

 「居住者」・「非居住者」の判定基準
項目 居住国 ・年間の過半数をどこの国で暮らしているのか?
自宅 ・住所はどこにあるのか?
ビザ ・どんな種類のビザを保有しているのか?
家族 ・家族はどこに住んでいるのか?
職業 ・仕事はどこで何をしているのか?
収入 ・収入の源泉はどこにあるのか?

「所得税」や「相続・贈与税」等は、税法上の「居住者」と「非居住者」どちらに分類されるかによって、納税する国が変わることが原則です。この場合、マレーシアの居住者となるか否かは、マレーシアの法令によって決まることになります。

マレーシアで居住者と判定され、日本でも居住者と判定されてしまった場合、二重課税を防止するために、マレーシアと日本の間の租税条約(日馬租税条約)によって居住者の判定方法が定められています。

原則的に、どちらの国の居住者となるかを判定するにあたっては、各国の締結する租税条約によって異なります。また、必要に応じて、両国の課税当局による相互協議が行われることもあります。

・所得税の納税義務
ここで、マレーシア非居住者として判定されれば日本の住民税・健康保険・年金等の支払いは免除されますが、日本で得た所得は日本で所得税を支払う義務があります。

・日本の「居住者」と判定された場合
所得が生じた場所が国内外を問わず、その所得に対して日本に所得税・住民税を納める義務があります。
・日本で「非居住者」と判定された場合
日本国内で生じた所得(国内源泉所得)には日本へ所得税を納める義務がありますが、マレーシア(日本国外)での事業や投資から生じた所得に対しては、日本の所得税・住民税はかかりません。

※ただし、マレーシアへの所得税の納税義務は発生します(マレーシアには地方税の概念はありません)。

日馬租税条約に基づき、「租税条約に関する届出書」と「年金の支払いを受ける者に関する事項」を社会保険業務センターに提出することにより、日本での年金に対する所得税は免除され、マレーシアの税法に則り、マレーシアでのみ課税されることになります(※マレーシアでは国外を源泉とする所得は非課税となるため、年金の受け取りについては日本・マレーシアともに二重非課税となります。ただし、年金に関する二重課税防止措置は、「厚生年金」と「国民年金」の加入者にのみに限られ、「公務員共済年金」や「私学共済年金」の加入者は、日本で課税対象となりますのでご注意ください)。

このように、「日本から受け取る年金は日本で非課税」となりますが、それ以外の所得の取り扱いについては最終的に客観的事実に基づいて判定されることになります。

なお、MM2Hのように観光ビザ(リタイアメントビザ)を使った海外への長期滞在は、日本の「居住者」として判定されるのか、「非居住者」として判定されるかについては、実はよくわかっていません。

仮に、年間の過半数をマレーシアで過ごしたとしても、観光ビザを使っての滞在では単にご自身の所在地を物理的に平行移動させただけなので、日本の居住者とみなされる可能性は少なからずあります。これは課税逃れのために、豪華客船に乗って世界中を旅行しているのと同様のイメージです。

このように観光ビザでの長期滞在(ロングステイ)は、長期旅行の延長とみなされ、結果として日本国居住者として判定されてしまう可能性があるため、注意が必要です。

MM2H保有者の方の所得税に関する「居住者」・「非居住者」の判定は、おおむね日本国非居住者」として判定されているようです(※あくまでも客観的事実に基づき、総合的に判断されます)

・相続税の納税義務
「相続税」については非常に厳しく、日本国籍保有者の方は、「相続人」「被相続人」がともに10年以上継続して日本を離れた場合に限り、国外財産については日本の相続税が免除されます(贈与税も同様)。それ以外の国内財産や、「相続人」「被相続人」のどちらか一方が日本に居住をしている場合は国外財産も日本の相続税(贈与税)の課税対象になります。

贈与人・相続人 財産・遺産をもらう側の人
被贈与人・被相続人 財産・遺産をあげる側の人
①「被相続人」→マレーシア在住・「相続人」→日本在住者
日本の財産もマレーシアの財産もすべて日本の相続税の課税対象となります。

※この場合、「相続人」の国籍は日本国籍でも外国籍でも関係ありません。

②「被相続人」→マレーシア在住(10年以上)・「相続人」→マレーシア在住(10年以上)
日本の財産のみが課税対象となり、海外にある財産は日本の課税対象外となります。

※日本国内に住所があるかどうかの判断等は、「相続発生」又は「贈与時点」を基準とし、この場合の住所とは「各人の生活の本拠」をいいます。ここでは住民票の住所の有無が判定基準になる訳ではなく、生活の本拠であるか否かは、「客観的事実」に基づいて判定されます(日本国国税庁の見解)。

③「被相続人」・「相続人」のどちらか一方が日本在住者
日本の財産も海外の財産も相続税の課税対象となります。

※どちらか一方(日本在住者である方)がマレーシア移住後10年を経過するまでは①と同様です。

法の適用に関する通則法によれば、「相続は、被相続人の本国法による」(通則法第36条)と明記されていることから(贈与も同様とお考えください)、相続においては、「相続発生当時の被相続人の国籍を有する国の法律」に従うことになります。

つまり、被相続人が日本国籍保有者である限り、世界中どこに住んでいても、日本に対して相続税を支払う義務自体は発生するということです。「海外に10年以上暮らせば、日本での相続税の支払い義務が無くなる」と認識している方がいますが、あくまでも支払い義務は「免除される可能性が高くなる」だけです。

MM2H保有者の方の相続税(贈与税)に関する「居住者」・「非居住者」の判定は、「日本国居住者」として判定され、実際に追徴課税を受けた事例があります(※あくまでも客観的事実に基づき、総合的に判断されます)

このように、観光ビザ(リタイアメントビザ)による海外ロングステイはメリットばかりが注目されがちですが、一定の資産をお持ちの方にとっては「日本国居住者」として判定される可能性があることはデメリットとして十分に認識しておく必要があります。


 

【ラブアン就労ビザを活用する】

ここでラブアン法人の就労ビザについて検討してみます(マレーシア法人も同様)。就労ビザは観光ビザとは本質が異なり、「就業目的でマレーシアに移住する」ことを客観的に証明できる可能性が高くなります。

それは、以下のような理由によります。

日本国非居住者と判定される合理的な理由 ・「ロングステイ目的」で単に居住地を物理的に移動させたわけではなく、あくまでも「就労目的」でのマレーシア移住であること。
・収入の源泉はラブアン法人から給与所得あるいは役員報酬として得ていること。
・業務上の重要な意思決定はマレーシア国内で行っていること。

もう1つのポイントは収益の源泉の違いです。

ビザの種類 申請要件
MM2H マレーシア国外から月額10,000RM以上の収入があることの証明
ラブアン就労ビザ ラブアン法人から月額10,000RM以上の収入を得ることを雇用契約書に明記

MM2Hは「マレーシア国外(日本)が収入の源泉」、ラブアン就労ビザは「ラブアン法人が収入の源泉」です。

ラブアン就労ビザの主な特色は以下のとおりです。

ラブアン就労ビザの主な特色 ・ラブアン島はもちろん、西マレーシア(例:クアラルンプールやジョホールバル、ペナンなど)にも居住することが可能
資産管理を目的としたプライベートカンパニーであっても就労ビザの取得が可能

※法人税は非課税扱いとなります。

・マレーシア人以外の役員が受け取る役員報酬は100%免税され、全額非課税となる。
居住取締役が不要のため、将来的にマレーシアを離れる場合でも、ラブアン法人を解散する必要がない。
・諸外国とのミーティングや出張を円滑に行うことができる。

※マレーシア移民法では、観光ビザを持つ外国人には事業活動が認められていません

・取締役や扶養家族の銀行口座の開設も可能となるため、日常生活における資金移動もスムーズに行うことができる。

※マレーシアではASEANでも珍しく、就労ビザまたは滞在許可を持たない個人の口座開設は原則的に認められていません。

ラブアン法人の設立を検討される多くの方々は「ラブアン法人の就労ビザはオフショアビザにも関わらずマレーシア本土に住むことができる」部分に大きな魅力を感じていらっしゃるかもしれません。

しかし、それは表面的な魅力の1つに過ぎず、このビザの本質はもっと別の場所に隠れています。上図に掲載した「ラブアン就労ビザの主な特色」をじっくりと眺めながら考えてみてください。

ラブアン就労ビザがいかに緻密に計算されたうえで設計されているか、おわかりいただけるかと思います。

なぜマレーシア政府はMM2Hの利便性が高いにも関わらず、ラブアン就労ビザを並存させているのか?

なぜラブアン法人の就労ビザはマレーシア国内で就労できないにも関わらず、「就労ビザ」という名称なのか?

このあたりに、マレーシア政府の思惑が見え隠れしているように思います。

 

※税法に関しては各国によって制度が異なるため、弊社だけでは結論が出せない部分もございます。詳しくは居住国の税理士、移民弁護士等の専門家にご相談ください。

※現在、MM2Hを保有されている方からのご依頼も多数いただいており、結果的にラブアン就労ビザに切り替えを行う方も多くなりました。節税対策を検討されている方は、ラブアン就労ビザの切り替えをおすすめします。

※MM2Hエージェント様からのご依頼も受け付けておりますので、お気軽にお問合せください。

(参考:マレーシア観光庁「Malaysia My Second Home Program」)

(参考:マレーシア内国歳入庁「Inland Revenue Board Of Malaysia」)

(参考:日馬租税条約「第154回国会―参議院防衛委員会会議録第9号―」)

(参考:eGov「法の適用に関する通則法、36-37条」)

(参考:日本国国税庁「居住者と非居住者の区分」)

(参考:日本国国税庁「居住者・非居住者の判定(複数の滞在地がある人の場合)

(参考:日本国国税庁「非居住者等に対する課税のしくみ」)

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